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東京高等裁判所 昭和41年(ネ)1489号 判決 1966年12月21日

控訴人

清水金一郎

右代理人

相沢岩雄

控訴人補助参加人

倉石佐兵衛

右代理人

鈴木敏夫

被控訴人

宮沢金吾

主文

原判決を取り消す。

被控訴人の請求を棄却する。

訴訟費用は第一、二番とも被控訴人の負担とする。

事実

補助参加人代理人は、控訴人のため「原判決を取り消す。被控人の請求を棄却する。」との判決を求め、被控訴人は、控訴棄却の判決を求めた。

当時者双方の事実上の主張及び証拠の提出、援用、認否は、補助参加人及び控訴人において次のとおり附加主張したほかは原判決事実摘示のとおりであるからここにこれを引用する。

一補助参加人の主張

訴外須田きみは昭和三八年九月一〇日補助参加人に対して本件債権を譲渡し、同年一二月五日債務者たる控訴人にその旨の譲渡通知(確定日附がある)をしたのであるが、その当時右譲渡債権につき被控訴人の申立により第一の債権差押並びに転付(長野地方裁判所昭和三八年(ル)第二〇号、同年(ヲ)第三四号債権差押及び転付命令による)がなされていたため債権譲渡の実体上の効果を生ずるに至らなかつたのであるけれども、須田きみ、補助参加人間の右債権譲渡行為並びに第三者に対する対抗要件具備のための確定日附ある証書による通知行為が適法に成立していたことは否定されるべくもない。

そこで、須田きみは、これに添う実体上の効果を得るため被控訴人に対し右被転付債権の再譲渡を求めて長野地方裁判所に訴を提起し、(同庁昭和三九年(ワ)第九号)、その勝訴判決を得た結果被控訴人から右債権の再譲渡を受け、これを取り房したのであつて、これと同時にさきにきみから補助参加人に対してなされた債権譲渡並びに控訴人に対する譲渡通知は当然に実体上の効果を発生し、第三者対抗要件を具備するに至つたのである。仮に、きみの補助参加人に対する債権譲渡の意思表示が昭和三八年一二月五日になされたとしても、右の結論は異らない。従つて、右時点以後になされた被控訴人主張の第二の債権差押並びに転付(長野地方裁判所昭和四〇年(ル)第四〇号、同年(ヲ)第四三号債権差押及び転付命令による)によつては既に実体上の効果を生じ、かつ対抗要件を備えた補助参加人に対する本件債権譲渡の効果をくつがえすことができないのであつて、本件債権は補助参加人に帰属している。

二被控訴人の主張

被控訴人は第一の債権差押及び転付により実体上本件債権を取得した。従つて、その後において須田きみが本件債権を参加人に譲渡し、かつ債権者たる控訴人その旨を通知したとしても、要するに他人に帰属する債権を目的とするものであるから、補助参加人主張のような効果を生ずるわけがない。

理由

「さきに被控訴人が須田きみに対する長野地方法務局所属公証人高井麻太郎作成昭和三五年第五九六号金銭消費貸借契約公正証書の執行力ある正体に基づき須田きみの控訴人に対する本件債権(長野地方裁判所昭和三四年(ワ)第一一一号事件和解調書表示の債権額金五〇万円、弁済期昭和三八年一二月末日の定めの債権)に対し長野地方裁判所に債権差押及び転付命令(第一の差押、転付命令)の申請をした結果同庁から右差押、転付命令が発せられ、きみ並びに控訴人に対してその送達があつたことは当事者間に争いがなく、<証拠>によれば、その送達の日がいずれも昭和三八年一一月二三日であることが認められるところ、他方右事実に<証拠>をあわせれば、右公正証書表示の債権は須田小一郎が主債務者、須田きみが連帯保証人とされているものであるが、被控訴人は既に昭和三六年三月二二日右債権を訴外株式会社共和商事に譲渡し小一郎もこれを承諾していたにもかかわらずこれが依然として自己に帰属するものとし前記第一の債権差押、転付命令の申請に及んだものであつたので右差押、転付命令の発付後小一郎並びにきみの両名は被控訴人に対し右債権の不存在確認と本件債権のきみに対する返還(再譲渡)及びその第三債務者たる控訴人に対する譲渡の通知を求めるため長野地方裁判所に訴を提起し、同庁昭和三九年(ワ)第九号事件として審理の結果昭和四〇年一〇月二七日右請求どおりの判決が言渡され、これに基づいて被控訴人は同年一一月二日本件債権をきみに再譲渡し、かつ同日付内容証明郵便をもつて控訴人に対しその譲渡を通知をしたことを認めることができ、以上の認定を妨げるに足りる証拠はない。」

しかるに被控訴人は須田きみに対する被控訴人主張の(一)ないし(三)の債務名義に基づき須田きみの控訴人に対する本件債権に対し再度同裁判所に債権差押及び転付命令(第二の差押及び転付命令)の申請をして昭和四〇年一一月二日その命令の発付を得、翌三日同命令正本が右債務者並びに第三債務者に送達されたことは当事者間に争いがない。

ところが一方成立に争いのない丙第一号証によれば、須田きみはこれよりさき遅くとも昭和三八年一二月五日までに本件債権を補助参加人に譲渡し、右同日付内容証明郵便をもつて控訴人にその債権譲渡の通知をし、そのころこれが到達したことが認められる。原審証人須田小一郎の証言のうち右債権譲渡の日付に関する供述はたやすく信用できないし、他に右認定を動かす証拠はない。従つて、その限りで補助参加人は民法第四六七条第二項により第二の差押及び転付命令の債権者たる被控訴人に対し右債権譲渡をもつて対抗しうるすじあいである。

右認定のような事実関係のもとに本件債権の帰属につき判断するに、執行債権の存否は適法に発付送達された転付命令の効力を左右するものでなく、第一の転付命令の債権者たる被控訴人はこれよりいつたん有効に本件債権を取得し、その後これを須田きみに返還(再譲渡)するまでこれを保持したものというべきであるから、須田きみが補助参加人に対してした債権譲渡の当時は被控訴人こそが本件債権の債権者であり、須田きみは債権者ではなかつたものというべきことは明らかである。しかし自己の権利に属しない債権であるからとてその譲渡が絶対に無効であるとするのは早計である。けだし他人の所有に属する物の売買が適法である以上他人に属する債権についてもこれを目的として債権譲渡をなしうるというべきであるからである。かような債権譲渡においては他人の物の売買と同様、譲渡人は自ら当該債権を取得した上これを譲受人に取得をせしめる義務があるとともに譲渡人に当該債権が帰属したときは特段の意思表示を要せず当然に右債権が譲受人に移転するものと解すべく、その譲渡につき民法四六七条第二項に従い対抗要件たる確定日付ある通知または債務者の承諾があれば、右債権の実体的移転と同時に右対抗要件を充足し、爾後これと両立しない利害関係を有するに至つた第三者に対する関係ではあらためて右の通知または承諾を要せず譲受人は右債権譲渡をもつて対抗することができると解するのが相当である。そうとすれば、須田きみの補助参加人に対する本件債権の前記譲渡は有効であつてきみが被控訴人から再度本件債権の譲渡を受けると同時に補助参加人がこれを取得し、さきに確定日附ある証書をもつて債務者たる控訴人にその譲渡の通知がなされていたから補助参加人はこれをもつて重ねて第二の差押及び転付命令を得た被控訴人に対抗できるものといわなければならない。

それのみでなく、前記認定の経緯に照らせば、被控訴人はきみと補助参加人間の本件債権譲渡の事実を知りながら第二の差押、転付命令を得たものと認めるべきであり、かような悪意の第三者は債権の帰属を決するについて法律上保護の利益を欠くから右債権譲渡について対抗要件の具備の点いかんにかかわりなく、被控訴人はその譲渡の効果を否認することができないといわなければならない。かようなわけで本件債権は補助参加人に帰属し、被控訴人は本件債権の債権者ではなく、従つて控訴人は被控訴人に対しその支払義務がないことが明らかである。

以上説示のおり被控訴人の本訴請求は理由がないからこれを棄却すべきであり、本件控訴は理由がある。これと異なる原判決は失当であるから民事訴訟法第三八六条に従いこれを取り消し、訴訟費用の負担につき同法第九六条、第八九条を適用して、主文のとおり判決する。(浅沼 武 間中彦次 柏原 允)

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